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高校サッカー日本一の監督が語るアスリートにとって大事なこと ー 畑喜美夫

畑 喜美夫
ボトムアップ理論提唱者

1965年11月27日広島県生まれ。小学校2年生から広島大河フットボールクラブでサッカーを始める。その後、東海大一(現・東海大静岡翔洋高校)へ越境入学。高校時代はU-17日本代表にも選ばれる。順天堂大学に進学し、2年時にU-20日本代表を経験。4年時に関東選手権、総理大臣杯、全日本インカレの三冠にボランチとして貢献。また、ソウルオリンピック日本代表候補選手となる。社会人では成年の部で京都国体に広島県選抜の選手として出場し、全国制覇(日本一)を成し遂げる。
現役として全国制覇を3度果たす。卒業後は、初任で廿日市西高校に8年間勤務し、傍ら広島大河FC(中学部)の監督を6年勤め、中国地域代表として6度全国大会に導いた(全国ベスト8が1回)。
1997年に広島県立広島観音高校へ赴任。指導者として、自ら考えて積極的に行動する力を引き出すサポート術「選手主役のボトムアップ理論」を用い、2003年に全国大会初出場させ、2006年には全国高等学校総合体育大会サッカー競技で36年ぶりの初出場初優勝の全国制覇を果たした。その後も数々のタイトルを獲り、全国大会も12度出場し、プロ選手(Jリーガー)も十数名育てた。

2006年に全国インターハイ初出場初優勝の全国制覇に導いた(後列右から2人目)

プロフィールを見るだけで圧倒されるその実績。畑喜美夫氏は高校サッカーの指導者として、選手主体の指導法「ボトムアップ理論」を提唱し、2006年全国インターハイで広島観音高校を初出場初優勝の全国制覇に導いた。今回の取材では「学生アスリートへのメッセージ」をテーマにインタビューをさせていただいたが、選手を主体に考えて指導をし続けてきた畑氏だからこそ、学生アスリートに向けたメッセージには重みがあった。

主体的であれ。

畑氏のインタビューの中で何度も出てきたキーワードがこれである。30年以上にも及ぶ指導歴の中で、どんな時でも選手には「主体的であれ。」というメッセージを伝え続けてきたと言う。もう少し詳しく言えば、「他者に依存することなく、自ら考えて主体的に動くこと。自分の行動の責任は全て自分にあると自覚すること。」ということになる。だから、畑氏のかつての教え子たちは、決して人のせいにすることをしない。そして、何よりも主体的に動くことを喜んでやっている。

高校時代にはU17の日本代表入りを果たした

人生を逆算して考えることでつかんだ全国制覇
畑氏の指導法に一風変わったものがある。それは、「"人生を80歳から逆算して今、何をすべきか"を考えさせるメンタルトレーニング」の導入である。方法は以下の通りだ。

80歳まで生きると仮定して、どんな80歳になっていたいかを考える。そこから逆算して70歳...60歳...と遡り、18歳の高校サッカーの締めくくりにどんな自分になっていたいかを考えさせる。では、そのためにこの1年は何をすべきか。さらに、最高の1年にするためには、この1ヶ月はどう過ごすべきか、と人生全てを踏まえての高校サッカー生活を考えさせる。そうすることで、高校3年間のサッカーのことだけを考えるのではなく、これから続く60年以上の人生全てを考えた高校サッカー生活になるのだ。

畑氏の指導法は、サッカーのスキルのみならず、生徒一人ひとりの「生き方」「在り方」を生徒自身に考えさせることで、チームを、そして、選手一人ひとりの人生をもボトムアップしていくのだ。ここまで考えて部活動に取り組んでいる高校生はなかなかいない。だからこそ、普通の県立高校を日本一に導くことができたのである。サッカーだけではなく、人生をも含めた「自分磨き」にこそ強さの真髄があるのだ。こういった「生き方」「在り方」までボトムアップするトレーニングは無限のバリエーションがあると言うから驚きだ。ぜひ、学生アスリートの皆さんにも人生のゴールからの逆算をしてみて欲しい。

サッカー界のみならず、多くの企業にボトムアップ理論を導入するため講演活動を行なっている

高校生に"うどん屋"の経営を考えさせて創り上げた日本一のチーム
畑氏のボトムアップミーティングの一つに「うどん屋の経営を考えさせる。」というものがある。選手たちに、「最高の売り上げを上げる”うどん屋”を作るなら、どんなうどん屋にする?」とテーマを与える。そうすると最初は、「最高の小麦粉を使います。」「最高の素材を使います。」という意見が出る。次第に意見が出なくなるが、その時こそが成長のチャンスである。「店員はどんな人?」「店の床はどうなっている?」とさらに考えさせるのである。そうすると、「あいさつがハキハキとしています。」「床はピカピカに磨かれています。」と次々に意見が出てくる。さらに、「トイレもキレイです。」という意見まで。そして、最後に畑氏は生徒たちに問いかける。「それって、強いサッカーチームも同じじゃない?」と。その日から部員たちは、目の色を変えてあいさつを励行し、環境整備に取り組んだり、より意識の高い練習を"主体的に"行うと言う。学生アスリートはスポーツのことだけでなく、経営のことも勉強し日々考えることで、チームづくりに良い影響を及ぼすだけでなく、将来の人生にも豊さを与えてくれるだろう。

順天堂大学時代もボトムアップ理論で日本一を勝ち取った(青と赤のユニフォーム)

「今、高校3年生、大学4年生だったらどうするか」という禅問答
上記のことから、サッカーは「生き方」「在り方」が最重要だということがわかる。もちろん、それは陸上競技でも他のスポーツでも同じだ。主体的に動くことを喜んでやれない選手に、良い未来は訪れない。「生き方」「在り方」を大事にする選手はその後の人生をワクワクしながら生きていくのだと畑氏は言う。最後に畑氏に「このコロナ禍で、ご自身が今まさに高校3年生あるいは大学4年生だったらどうしますか?」との質問をした。その返答はまさに畑氏の真骨頂とも言えるものだった。

この状況下で高校3年生、大学4年生だからと言って、特別なことはない。そもそも「引退」という言葉が好きじゃなくて、これで引退だと思ったことがないから、好きなサッカーをただ続けるだけ。そして自分磨きをし続けるだけですね。高校時代も、高3の終わりの3月31日までずっと練習をしていた。試合があろうがなかろうが関係ないです。サッカーは自分磨きですから。それこそ、こういう状況だからこそ「主体的であれ」と自分に言い聞かせて、自分の人生を主体的に考えて行動しますね。

スポーツは試合があってこそ楽しい。もちろんそれも確かにある。しかし、それ以上に畑氏は、ただただサッカーを愛し、そしてサッカーを"自分磨き"だと捉えているからこそ、このような返答になったのだ。しかも、結果的に、このような思考法をしているからこそ、後々に結果が出てくるのである。試合がなくなったことで、今すぐに"わかりやすい形での芽が出る"ということはなくなったかもしれない。しかし、そんな今だからこそ大好きなスポーツに、より一層主体的に取り組み、自分磨きをすることで道は拓かれていくのだ。道に迷いそうになった時、「主体的であれ。」と言う言葉をぜひ思い出して欲しい。

↓畑喜美夫 公式ホームページ ※クリックでHPへ

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