支える覚悟が、僕を強くした。主務として見つけた新しい誇り 中央学院大学 ⽯橋 楽⼈

支える覚悟が、僕を強くした。主務として見つけた新しい誇り 中央学院大学 ⽯橋 楽⼈

2025.12.24
インタビュー

走ることが好きだった一人の中学生は、やがて「走らない」という決断を。
記録が伸びる喜び、箱根への憧れ、大学で突きつけられた現実――。
それでも競技から離れず、選んだのは“支える側”としてチームと生きる道でした。
走れなくなったからこそ見えた景色、背負った責任、そして駅伝に懸ける覚悟。
これは、中央学院大学を陰で支え続けてきた主務が語る、もう一つの箱根駅伝の物語です。

中学生で見つけた「走る喜び」

陸上との出会いは、中学生の頃でした。当時はサッカー部に所属していましたが、スポーツテストの結果が良かったことから、特設の駅伝部に参加することに。

走れば走るほど記録が伸びていく感覚が心地よく、気づけば県大会、そして関東大会へ進むほどになりました。
その姿を見た先生に“陸上競技が合っている”と背中を押していただき、高校から本格的に陸上の道へ進むことを決めました。

高校で広がった新しい世界

高校1年生の頃は、トラックが400mであることすら知らない状態でのスタートでした。
練習はとにかく辛く、毎日が必死。それでも初めての世界に飛び込んだワクワクが勝っていました。

2年生になると“3000mで8分台。5000mで14分台”という具体的な目標が芽生え、主力としてレースに絡むことも増えていきました。駅伝を走りたいという願いが、確かな形を持ち始めた時期でもありました。

そして3年生。結果にもこだわり、見える景色が変わっていく感覚がありました。
“もっと強くなりたい”その純粋な思いが、毎日の練習を支えていました。

 大学進学を考える頃、競技を続けるか悩む時期もありました。
それでも胸の奥に残っていた“箱根駅伝への憧れ”が、中央学院大学で競技を続ける決め手となりました。

大学で知った高い壁と現実

大学では、大きな夢と期待を抱きながらスタートしました。しかし同期には14分1桁で走る選手も多く、レベルの差を痛感。

 “こういう選手が箱根駅伝を走るんだろうな”と、どこかで自分に限界を作ってしまっていたように思います。

それでも、やめたいと思ったことは一度もありませんでした。
仲間とともに走る時間が純粋に楽しく、悔しい結果でも前を向くことが出来る最高の環境でした。

しかし、1年生の終わり、タイムが伸び悩んだことで寮を離れることに。
その頃から“マネージャー”という選択肢が頭に浮かび始めました。両親や当時の主務の方と話し合い、

“走る自分ではなく、支える自分でチームに貢献したい”
そう思うようになり、マネージャーへの転向を決めました。

 マネージャーとしての新たな挑戦

マネージャーに転向直後は覚えることの多さに必死の日々でした。
そんな中、当時の主務が丁寧に教えてくださり、少しずつ自分の役割を理解していきました。

3年生で主務になることは早くからわかっていたため、見習い期間として多くの業務を経験。“どうすればチームの力になれるのか”を常に考えて過ごしていました。

 主務として背負った責任

主務になった当初は、“きっと大変だろうな”くらいの軽い気持ちでした。
しかし役割が大きくなるほどに、“ミスなくチームを支えることこそ自分の責務”だと意識が変わっていきました。“選手が走りに集中できる環境を整えること、選手の声を監督やコーチに届け、より良い環境をつくること”
そのすべてが自分に与えられた使命だと感じて、常に過ごしてきました。

  走れない自分が見つけた新しい誇り

マネージャーとしての最大の喜びは、“走れない自分がチームの一員でいられること”、そして”誰よりも近くで選手の努力を見守れる”ことです。
走れない自分が、こんなに素晴らしいチームに受け入れてもらえていること、そして選手の活躍を間近で感じられることが何にも変え難い幸せです。

 喜びと悔しさが教えてくれたもの

全日本予選や箱根駅伝予選会をトップ通過した時、積み重ねてきた努力が“形”となり、心の底から込み上げてくるものがありました。

特に箱根予選会は、新チーム発足時から“3位以内で通過”を目標に掲げ続けてきました。
地味なトレーニングを積み重ねてきた日々が、本番でしっかり報われたことが本当に嬉しかったです。

一方で全日本大学駅伝は、悔しさが残りました。箱根駅伝予選会から2週間という短期間での調整がうまくいかず、関東最下位という現実。ピーキングの難しさと実力の差を痛感する大会でした。

中央学院の強み「距離の強さ」と「団結力」

中央学院の強みは、距離に対する強さと団結力です。
5000m
10000mでは他大学に劣る部分があっても、ハーフマラソンを62分台以上で走れる選手が10人いるなど、このチームは距離に強い選手が揃っていると思います。

そして駅伝は、走る選手だけで戦う競技ではありません。走らないメンバーの努力も含め、全員の積み重ねが結果を左右します。

昨年の大エース・吉田礼志さん(現 Honda陸上競技部 )の存在は非常に大きく、礼志さんの抜けた今、“自分たちが頑張らないといけない”という危機感がチーム全体を突き動かしているように感じます。

礼志さんの背中を今の4年生が見て、そしてその4年生の姿勢が後輩たちの手本となる。先輩の存在がチーム全体の結束を強くしてくれていると思います。

また最近では2年生の成長も著しく、上尾ハーフで2分台を出した三代田・長友・徳善・山中の4人の活躍は、日々地道な努力を積み重ねてきた姿を見てきただけに、心から嬉しい結果でした。

 箱根駅伝の目標「シード権獲得」

チームの目標は、シード権の獲得。そのために大切なのは、“ミスなく襷をつなぐこと”だと感じています。

中央学院には、爆発的な“ゲームチェンジャー”がいません。その分、一区から良い流れをつくり、一人ひとりが役割を果たし続け、確実に、ミスなく襷をつなぐことがシード獲得の鍵になると感じています。

 箱根駅伝への思い

箱根駅伝は、楽しみ半分、緊張半分です。
マネージャー同士で区間配置やコースの特徴を話しながら、“誰がどこを走るのか”を考える時間は何度でもワクワクします。

本番まで怪我人を出さず、全員がベストコンディションで臨めるよう、残された時間を全力で支えたいと思っています。

 3年間で得た大きな財産

この3年間を振り返ると、心に残る言葉は“経験”です。
全日本大学駅伝で運営バスを担当するなど、選手を続けていたら得られなかった貴重な経験を、たくさん積むことができました。その素晴らしい景色を見させてくださった監督、そして選手にとても感謝をしています。

最後に──選手へ、チームへ、そして応援してくれる方々へ

◆選手へ

これ以上強くなることはありません。積み上げてきた力を信じて、胸を張ってスタートラインに立ってほしいです

監督へ


「怒らないでください。優しくしてください笑。これからも迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします

家族へ


別の形にはなりましたが、箱根駅伝に向けて全力で頑張ります。これからも応援よろしくお願いします

応援してくださる皆さんへ


中央学院らしい粘りのある走りで、シード権獲得を目指します。応援よろしくお願いします。そして、公式YouTubeチャンネルもぜひご覧ください

 

INTERVIEWEE

⽯橋 楽⼈

⽯橋 楽⼈

中央学院大学 駅伝主務

WRITER

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熊谷遥未

2001年11月16日東京都出身。田園調布学園を経て法政大学に進学。2023年の日本選手権では、女子400m決勝進出という実績を持つ。自己ベストは400m54.64(2024年8月現在)。現在は、青森県スポーツ協会所属の陸上選手として活動する傍ら、2024年9月より陸上メディア・リクゲキの編集長を務める。