「走ることが、ただ楽しかった」――その純粋な喜びから始まった陸上人生は、やがて“支える覚悟”へと形を変えていく。
姉の背中を追いかけて踏み入れた競技の世界。選手として夢を追い、マネージャーとして箱根駅伝を目指し、そして主務としてチーム全体を背負ってきた。昨年の箱根駅伝の予選会、わずか1秒に泣いたあの日の悔しさは、チームを強くするための原動力に。
選手の隣で歩み続けた一人の主務が見た、箱根駅伝までの軌跡です。
陸上との出会いー幼い頃に芽⽣えた⾛る喜び
陸上競技との出会いは、⼩学校 3 年⽣の頃でした。姉が所属していた陸上クラブに⾜を運ぶ機会が多く、気がつけば⾃分も陸上競技の世界に⾜を踏み⼊れていました。
中学では短距離を専門とし、⻑距離の選⼿が少なかったため駅伝を経験。⾼校では 400m・400mH を専⾨に競技に打ち込んできました。“⾛ることがただ楽しかった”。 その純粋な喜びが、⻑く続く競技⼈⽣の根っこになりました。
⼤学進学を考えた頃、⾷品や農業分野への興味があり、東京農業⼤学へ進学。そして、同時に芽⽣えていた“箱根駅伝の舞台に携わりたい”という思いが、陸上部への⼊部を後押ししてくれました。
マネージャーという道ー“挑戦したい”が背中を押した
⼊学後は迷わず陸上部の体験へ。そこで感じたのは、箱根を⽬指して必死に⾛るチームの姿への強い憧れでした。常連校ではないからこそ全員が“挑む側”として同じ⽅向を向いている雰囲気。その熱を肌で感じた瞬間、“ここで頑張りたい”と⼼が決まりました。
⻑距離の専⾨知識はなかったものの、不安よりも“挑戦したい”という気持ちが⼤きくありました。
ただがむしゃらだった 1 年目ー⾒えない仕事の重み
給⽔、タイム計測、大会のエントリー、事務作業。マネージャーという仕事の多さに驚きながら、先輩の背中を追う⽇々。表に⾒えない仕事こそ、選⼿を⽀えている。その事実を知った⼀年は、学びと気づきで溢れていました。“⼤変”よりも、“もっとできるようになりたい”。そんな気持ちが強かったです 。
マネージャーとしてー“選⼿の隣を歩く”という覚悟
男⼦が多い環境で最初は⼾惑いもありました。しかし会話を重ねるうち、⾃分の居場所が自然とできていきました。3 年⽣になる頃には、“⾃分にしかできない仕事を探す” という姿勢へ変化。普段の会話が、“信頼”につながる。そんな⼩さな積み重ねが、マネージャーという⽴場を強くしていくのだと実感しました。時には厳しく伝え、時にはそっと寄り添う。“選⼿の隣で⽀える覚悟”が、少しずつ形になっていきました。
3 年生ーついに夢の舞台へ
3 年⽣では、ついに全⽇本⼤学駅伝、そして箱根駅伝の舞台へ。箱根駅伝予選会の結果発表の瞬間、⿃肌が⽴つほどの震えを覚えました。先輩方が積み上げてきた努⼒が報われ、その瞬間に⽴ち会えたことは⼀⽣の宝物となりました。
補助員として⾒ていた箱根駅伝とは全く違い、“⾃分のチームの選⼿が⾛る”“⾃分のサポートした仲間がテレビに映る”その光景に胸が熱くなり、ワクワクが⽌まりませんでした。
4 年生ー仲間とともに戦った 1 年、そして 1 秒の現実
同期の主務を⽀えながら、必死に学び続けた 4 年⽣。エースが多い代ではなかったものの、それぞれが強い思いを胸に箱根駅伝予選会に挑みました。しかし――結果は、わずか 1 秒差の落選。
“⾃分たちの代で箱根に連れていけなかった”
悔しさ、申し訳なさ、虚しさ。寮に戻っても涙が⽌まらず 、⼈⽣で最も悔しい瞬間でした。
しかし、大学院進学を控えていたこともあり、「部活に残らないか」という声をかけていただきました。
監督やコーチ、マネージャー、後輩たちと何度も話し合いを重ね、温かい後押しを受けてマネージャーとして続ける道を選択。“やるからにはやり切る”。覚悟が決まった瞬間でした。
主務としての 1 年ー組織を強くするという決意
この⼀年は、“マネージャー組織を強くする”ことに尽⼒しました。選⼿が強くなるなら、マネージャーも強くならなければならない。記録に残らない役職だからこそ、価値を⽰し続ける必要がありました。歴代の主務の偉⼤さを痛感し、“この⽴場に⽴てる特別さ”も強く感じたました。
また、全員と向き合う姿勢を徹底。部員一人ひとりへの目を配り続けることを心がけました。
“誰も取り残さないこと”。それが主務としての信念になりました。
やりがいー“選⼿の喜ぶ姿”がすべてを満たす
選⼿が良い記録を出した瞬間。⾛れなかった選⼿が久々にポイント練習を完遂した瞬間。その笑顔を⾒るたび、“サポートが⼒になれている”そう感じられて、⼼から嬉しくなります。時には、感謝の⾔葉を直接伝えてくれる選⼿もいて、そんな⼀つひとつの瞬間が私の励みでした。
“1 秒”が変えたー悔しさを⼒に
前年の箱根予選会で味わった、あの 1 秒の悔しさ。その悔しさは、この⼀年間頑張る原動⼒になりました。主将を中⼼にミーティングが増え、選手一人ひとりの考えや思いを部員内で共有する機会が増えました。
練習でも“絶対に離れない”“垂れない”“0.1 秒を争う覚悟”が宿り、例年とは明らかに違う雰囲気がチームに⽣まれていました。
壁のない関係性と、同じ⽅向を向く強さ
学年の壁がなく仲が良いことがこのチームの強みです。新しい寮の共有スペースで⾃然とコミュニケーションが⽣まれるようになりました。
選⼿の中でも特に、3 年⽣の栗本は⼤きく成⻑した存在でした。⾛⼒だけでなく⼈としての姿勢まで変わり、チームを前へ引っ張る選⼿へと変貌していきました。
主務だからこそ⾒えた主将・菅原の姿
この1年間、菅原は常に“チームのために”を考えて⾏動していました。良い時も悪い時も逃げずに向き合い続ける姿勢。また、主将として⾔葉に責任を持ち、チームを導く存在でした。
迎えた箱根駅伝予選会当日。
⾛れない悔しさを抱えながらも、仲間たちを送り出す姿。結果が決まった瞬間、涙を流しながら仲間の健闘を称えた姿。⼀年間背負い続けた重圧、⾛れなかった悔しさ、そして安堵…そのすべてが溶け込んだ表情でした。
私にとって忘れられない光景になりました。本戦では、全ての想いをぶつけて⾛ってきて欲しいです 。
今年のチームと、⼿にした⾃信
⽬標はシード権獲得です 。
チームの状態はとても良いです。箱根駅伝予選会前も仕上がっていましたが、今はさらに個々が⼒をつけ、互いに刺激し合えています 。予選会メンバーに⼊れなかった選⼿も練習にしっかり⼊り込み、チーム全体のレベルが底上げされている実感もあります。
“競い合いながら⾼め合えるチーム”。そんな雰囲気です。
最後に──選手へ、チームへ、そして応援してくれる方々へ
◆選手へ
最後を迎える中で選⼿へ伝えたいことまずは、“ありがとう”の気持ちです。⾃分が残ると決まった時、これまで通り接してくれた選⼿たち。その優しさに何度も救われてきました。そして、箱根駅伝という舞台を⼼から楽しんでほしいです。責任やプレッシャーはあるかもしれません。でも、最後は⾃分のために⾛ってほしい。⾃分のなりたい姿を胸に、堂々と⾛り切ってほしいです。
◆監督、コーチへ
1 年⽣の頃から変わらず⽀えていただき、ありがとうございました。最後、 “任せて良かった”と思ってもらえるレースにしたいです。⼀緒に結果を喜び合える瞬間を迎えたいと思っています。
◆家族へ
⽣活⾯を含め、ずっと⽀えてくれた家族へ。⾛る⽴場ではないけれど、“やり切る姿”で感謝を届けたいと思っています。
◆マネージャーへ
⾃分が残ることを決めた時、「残ってくれてありがとうございます」と温かく受け⼊れてくれた後輩たち。⼼から感謝しています。上⼿くいかないことも多く、迷惑をかけたこともありましたが、いつも協⼒してくれました。このチームのマネージャーとして過ごせたことを、心から誇りに思います。この⼀年で積み上げてきたものを、最後の箱根駅伝で形にしたいですし、 、終わった瞬間、全員で⼼から喜び合いましょう。
◆応援してくれる皆さんへ
差し⼊れや⾔葉をかけてくださる⽅々、そして⽬に⾒えないところで⽀えてくれる多くの方々のおかげで、このチームは⾛れています。その感謝を忘れずに、テレビの前の⽅にも、沿道で応援してくれる⽅にも、喜んでもらえる⾛りを届けたいです。⾛る選⼿だけでなく、給⽔や応援で⽀えるメンバーも含めて、“全員で作る箱根駅伝”。その姿を⽰せるレースにしたいです。
