日本陸上界の競技力向上に貢献したいという熱き思いをYouTubeに込め、発信を続ける京産大出身の幸せ陸上アスリートきーちゃん

日本陸上界の競技力向上に貢献したいという熱き思いをYouTubeに込め、発信を続ける京産大出身の幸せ陸上アスリートきーちゃん

2020.08.28
2023.12.13
インタビュー

「高校1年生の頃の自分は誰からも必要とされず、むしろ邪魔とすら思われていたと思います。そんな自分が、役割をもらい、成功体験を重ねることで大きく変わることができました。多くの人に変わるきっかけを与えられたらと思っています。」

オンラインコーチングも実施中(写真クリックで動画視聴)
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「きーちゃん」と呼ばれるその男は、陸上系YouTuberとして「陸上トレーニングスクール」というチャンネルを運営している。今でこそ1000人以上のチャンネル登録、1万回以上視聴される動画も数本あり多くの中高生に知識を伝える彼だが、かつては誰からも必要とされていない陸上部員だったと言う。名門県岐阜商業高校、京都産業大学でマイルリレーの中核を担った彼の過去に迫る。

野球をドロップアウトしてたどりついた陸上部で

私は中学校まで野球をやっていました。県岐阜商業高校にも当然、野球をやるつもりで進学しましたし、実際、野球部に入部しました。ですが、1ヶ月ほどで退部しました。高校入学前に肘を剥離骨折して3月に手術、包帯を巻いたまま高校野球部の世界へ。練習中に飛んできたボールに対して、怪我をした手を庇うために足を出して止めてしまった。それが原因で、詰められ酷く叱られた。それで一気に野球への思いが冷めてしまった。親に謝って退部しました。
退部したのは良いですが、うちの高校では必ず部活には所属しなくてはならなかった。なので、中学時代に一番楽そうに見えた陸上部に仕方なく入りました。ところが、陸上部の顧問は学校でも一番怖い先生だったんです。ここで普通なら、ちゃんとやろう!ってなると思うのですが、心の底から腐っていた自分はそうはならなかった。退部届を出すのは怖かったので、とにかくサボってそのまま3年間逃げ切ってやろうと思っていましたね。グラウンドにある小屋に隠れたり、見放されるまでサボりました。なので、試合にも出されず、夏休みまでスパイクすら買っていませんでした。

突然訪れた転機

ところが1年生の9月に県の新人戦があって、枠が余っていた400mに出るようにと顧問に言われたんです。そこで初めてスパイクを買って出場し、記録は56秒14でした。嫌々出場したんですが、もっと嫌いになりました。マイルリレーでうちの高校が県を勝ち抜いて東海新人まで進んだのですが、あろうことかリレーメンバーの補欠に入れられた。静岡まで行くと聞いて、心底行きたくなかった。無理やり連れてかれて、気づいたら先輩が怪我をしていて急遽アンカーを走ることに。レースの記憶は一切ないのですが、「もう絶対に試合なんか出るものか!」と心に決めました。自分は陸上が嫌いだという自信が確信に変わった瞬間でしたね。
でも、そのシーズンオフに転機が訪れました。マイルメンバーの先輩とラーメンを食べに行った時に、「来年の県総体ではお前と一緒に走りたい。」と言われたんです。これは本当に鮮明に覚えています。自分は咄嗟に「いやいや、自分なんかが申し訳ないですよ、、、。」と誤魔化したんですけど、家に帰ってからも先輩の言葉がすごく心に響いていて。人に必要とされて初めて本気でやってみようと考え直したんです。

生まれ変わった自分

それからは「チームの役に立ちたい。」という思いで頑張りました。目標としていた岐阜県高校総体のマイルリレーでは3人の3年生と一緒に走って優勝することができました。自分一人だけ2年生だったので、先輩に恩返しができて良かった。初めて陸上をやってて良かったと思いましたね。秋には個人で東海新人まで進み400mで49秒46まで記録を伸ばすことができました。
自分が3年生になると、面白いものでマイルメンバーが自分以外が全員2年生という、前年とは逆の形になっていました。自分は前年、先輩たちに優勝という経験をさせていただいたので、今度は後輩3人に優勝という経験をさせてあげたいと思いました。大会では目標どおり優勝でき、後輩たちには良い思いをさせてあげられて嬉しかったですね。本当に腐っていた1年生の時の自分からは大きく成長できました。自分の経験を生かして、後輩たちにはよく「腐るなよ、サボるなよ。」って言っていましたね。

名門京都産業大学で過ごした4年間


高校時代の顧問が京産大出身で400mのベストが47秒76だったんです。それは超えておきたいなと思って、同じ大学に進学しました。推薦をもらえるほどの結果を出していなかったので、一般入試での入学でした。1回生の時は苦しかったですが、それ以降は順調に記録を伸ばし、4回生の時には400mとマイルリレーで全日本インカレに出場することができました。3年生の途中から幹部学年になり、自分も短距離パートの副キャプテンを務めていたのですが、意識の低い後輩には厳しくしていました。昔の腐っていた時期の自分と重なり、どうしても強く指導してしまう。それで辞めたいと言う後輩も出てきて、、、同級生に「そういう指導はやめろよ。」と怒られたりもしました。自分としては、後輩に成功体験をして欲しかっただけなんですけど、今思うと独りよがりな考えだったなって思います。そういう面でも成長できた4年間でした。

リレーありきの個人、陸上は団体競技


自分はリレーありきの個人だと思っています。それは高校でも大学でも一貫していました。自分の中には幸せの概念があって。1人で勝つより、マイルだと幸せが4人分の掛け算になるんですよね。あの、4人で共有する時間が好きなんです。それぞれの想いや哲学があって、それをバトンという形で繋いでいく。全日本インカレにマイルリレーで出場しましたが、一人では届かないところにも4人でなら届くと思うんです。ぶっちゃけて言えば、個人よりリレーの方が可能性があると思います。4人の思いの掛け算ですから。1人ではできないことが、4人ならできるんです。

YouTubeを通して成功体験を届けたい


大学を卒業してからは普通に会社員をしていました。2019年7月頃にふと陸上のYouTubeチャンネルを立ち上げようと思ったんです。1番の目的は「観てくれる人の競技力向上。そして、それによって多くの人に成功体験を与えたい。」ということです。高校1年時に練習をサボっていて、誰からも必要とされていなかった時の自分を思い返してみると、そういう人って日本中にたくさんいると思うんですよ。だからこそ、そういう人たちに少しでも目標を持たせたい。そのきっかけに「陸上トレーニングスクール」がなれたら良いなと思っています。自分の人生を大きく変えてくれた陸上競技で学んだことを人に還元したいんです。自分が生きた証を残しながら、多くの人の競技力を高め、自己肯定力が高まれば世の中ハッピーになると思いますね。これからも動画の投稿を続けます。そして、いつかオフラインのチームなんかも作れたら嬉しいです。

編集後記

経歴だけ聞けば、陸上の名門高校、名門大学出身で陸上一筋に生きてきた方なのだろうと思っていました。そんな彼が、野球をドロップアウトしたこと、仕方なく陸上部に入ってサボりにサボっていたことなどを聞くと、人の人生はどこでどうなるかわからないものだと思わされました。先輩の「お前と一緒に走りたい」という一言がなければ、今、彼はどうなっていたでしょうか。そう考えると、言葉の力は大きいですね。アスリートたちがどのような言葉でその人生を作り上げてきたのか、そのようなところにもこれから注目しながら取り上げていけたらと思います。

INTERVIEWEE

きーちゃん

きーちゃん

陸上系YouTuber
岐阜県出身。岐阜県立岐阜商業高等学校、京都産業大学出身。
現在は会社員をしながら「陸上トレーニングスクール」というYouTubeチャンネルで、日本の競技力向上を目的とした発信をしている。高校1年生までは野球選手。高1の時に陸上競技部に転部し、岐阜県高校総体のマイルリレーで2連覇。個人では東海高校総体出場。京都産業大学進学後も着実に力をつけ、400mとマイルリレーの両種目で全日本インカレに出場。
自己ベストは100m10秒69、200m21秒65、400m47秒31のマルチスプリンター。

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リクゲキ編集部

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